安全な社員構成などを考える上で参考にして頂きたく、今回は典型的な例として医療法人が乗っ取られてしまった具体例を実例を元にして書いて行きましょう。
<乗っ取りの具体例>
1)法人形態
・社員は、院長、配偶者、子供の3人(院長以外は非医師)
・社員全員が理事を兼務(社員3名、理事3名)
・院長以外の家族はお手伝い程度に法人業務に関わる
・家族理事給与は仕事内容に対し高給
・監事は遠い縁故者で名前だけ、1名(給与は気持ち程度)
・法人の形態は「持分の定め無し」で法人価値は3億円
・有床診療所で入院患者あり
・院長以外に代診医数名(全員非常勤)
・診療所の土地建物は法人所有
※地方町村部に数多く見られる普通の診療所です。
2)創業者である院長が急逝した場合
・前院長は医療法人の社員、理事長、医療機関の管理者であった
・入院患者も居る事から医療継続のため代診医師が管理者就任
・管理者(新院長)は速やかに理事就任
・理事の中で医師は1人だけなので管理者が理事長就任
・社員が1人不足するため理事長が社員に就任
・理事長の希望で他の代診医師2名も理事と社員に就任
・この段階で社員5名理事5名となり創業家が過半数割れ
※ この時点で、新しい管理者1名だけを社員理事にし、残った家族理事が主体的に解散手続きや医療法人の存続に向けて行動を開始すれば3億円の殆どは家族理事の下に残りましたが、前院長急逝後の医療法人関連手続きは事務長を通じて税理士や弁護士等に丸投げで、自分達からは診療所を閉めるとも売るとも続けるとも希望は出さなかったようです。
※ この場合には「代わりに院長になっても良い」という医師が居るため医療機関の存続は可能です。また当然ながら事務長その他の職員は、可能であれば医療機関を存続させたいと希望する場合が殆どです。
※ 新理事長としては不安感もあり、医療法人知識も無く日常の運営に深く関わっていない前院長の遺族達と一緒に経営するより他の医師と共同で運営する事を望む場合も多く、他の医師達を理事として受け入れる際に社員就任も同時に行うような手続きがされ、それを家族である社員(兼理事)が内容を理解しないまま印鑑を押した、と言う事でしょう。医療法人の役員変更手続きは行政書士や司法書士が行う事が多い(登記は司法書士)のですが、書面は絶対に事前確認を行いますし、捺印時にも確認出来るはずなので全ては各人の自己責任と言う事になります。
※ この時点では御家族は医療法人については創業家の手に残るものだと信じ込んでいました。
3)その後の動き
・医師側が多数派で社員総会での議決権は創業家に無くなる
・理事改選の社員総会で家族理事は再任されず経営から排斥
・理事で無くなると家族の役員給与収入はゼロ
・理事の退職金規程が制定されていない場合には退職金もゼロ
・経営は残った医師の理事3名によって行われる
・経営に伴う利益は理事達で分配(給与で)可能となる
<解説>
社員兼理事であった家族は理事でなくなり、社員総会でも少数派、社員配当なども無いため無収入となりました。
持分なし医療法人は相続財産では無く、さらに医療機関が使用している不動産も医療法人の所有であるため相続は出来ません。あくまでも社員総会が医療法人の最高意思決定機関です。
と、此処まで来て、やっと家族理事は完全に自分達の権利も財産も無くなっている事に気付く事になったりします。「そうなる前に誰かが助言すれば」と思われるでしょうが、医療法人制度に詳しい人は特に地方都市には数少ないものです。
一旦こう言う状態になった場合、医療法人の運営権は過半数議決権を持つ社員が持っていますから、こういった状況を経た後の医療法人の顧問税理士や弁護士等は新しく社員になった医師団の味方をするでしょうし、それが法律です。
医師団に乗っ取りの意思がなかったとしたら、この時点で社員構成を変えるなどの措置を執る事も出来ます(そういったケースにも遭遇した事があります)。
・理事の任期は2年
具体例のように院長が急逝された場合で、残された家族に知識が薄い場合には最も乗っ取りが行われやすい傾向にあります。経営権を狙う側から見ると理事の任期は二年なので、最長二年我慢すれば理事から家族理事を追い出すことが可能と言う事になります。またその前に高すぎる家族役員の給与を下げる事またはゼロにすることも有り得るでしょう。
・誰が医療機関のオーナーかは患者等には関係なし
厳しい言い方をすれば、医療法人に関する知識の薄い家族理事達に高給を出すより、新たな医師団が法人運営した方が地域医療に貢献出来、医療法人制度の理念に沿っている、とも言えるかもしれません。過去の実例でも「亡くなった院長の家族だと言うだけで理事になった、病院の事を大して判っていない人達が医療現場に口出ししても邪魔なだけ」と言うような意見が現場から聞かれた事もありました。この辺り、家族理事がどの程度実務に携わっているか?働きに対応する給与が他の従業員と同様の水準か?等によって事態は全く変わって来るでしょう。
地域医療に期待している行政、患者さん、多くの従業員さん等にとっては、診療所の運営がスムースに行われていれば良いのであって、誰が運営していて誰の財産なのかは関係も興味も無いと言う事です。
・持分の定めの有無による違い
これが持分の定めのある法人なら社員は辞任と共に各々の持分に応じて財産の分配を得られるところですが、持分の定めのない医療法人は社員の持分に財産権がありませんから、経営権の在処が代われば合法的かつ非課税で財産その他何もかもが法人ごと新経営陣に移動してしまいます。持分の有無については何れ説明をすることと致しましょう。
今回のようなケースは滅多に起こりませんが、「いつ創業者のもので無くなっても可笑しくない」社員構成その他の状況にある医療法人は世の中に多く見られます。多くは社員、理事、事務長、顧問税理士などの法人関係者の誰も危険なことに気付かずにそうなってしまっているケースで、それを指摘すると「どこが危ないの?」「まさかそんなことないでしょう(笑」というような感じなのが歯がゆいですが、まぁ最後は自己責任ですから、、、。
分院展開をお考えの場合や病院医療法人経営者等の皆さんは、この辺りの医療法人の仕組みを充分理解されておかれる事を強く推奨します。

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