前回に書いたとおり、小型の社団医療法人に関する事項を中心に書き進めて行きます。
医療法人の組織を理解していないと困るようなことは、何十年も身内だけで医療法人の経営をされている方にとっては然程多くありません。
しかし、他人が経営陣に入ってきたり、分院を出したり、事業承継などが絡んでくると非常に重要な事項になります。
現に私も勤務医師団に乗っ取られた病院事例等を何例も見てきています。よく判らないまま医療法人の社員や役員の構成を行なうことは非常に危険な行為で、医療法人の有する経営権や財産を法人ごと乗っ取られることも有り得るのです(この辺りも後日書いて行こうと考えています)。
<医療法人組織概要>
ざっくり纏めると医療法人は次のような組織で出来ています。これは全然難しいものではなく、必死に暗記しなければならないようなものでも有りません。でも、いざというときに失念していると大変なことになるかもしれない、そういうものです。
・社団医療法人のオーナーは「社員」
→社団医療法人の最高意思決定機関は「社員総会」
・医療法人を経営するのは「理事」
→医療法人の経営責任者会議は「理事総会」
・「院長」は医療法人が開設した医療機関の管理者
→管理者は現場責任者であり理事の一人でもある
では説明を始めましょう。
〈社団医療法人のオーナーは「社員」〉
「社員」と言うと会社員を想起される方が多いのですが、医療法人で言う社員は「医療法人の構成員」で、これは「オーナー」と言い換えても良いかと思います。株式会社で言えば株主に当たりますね。
ただしオーナーと言っても「持分の定めのない社団医療法人」の社員には法人に関する財産権は与えられておらず、株式会社のように資本金の払い戻しのようなことは出来ません。
逆に「持分の定めのある社団医療法人」の社員にはその名の通り持分があり、各人の持分に合わせて財産権を有する特色を持っています。
※詳細はまたの機会に書きますが、持分の有無によって両者の経営や運営に関しては真逆とも言える部分が多く、その違いを理解してから運営することが肝要です。
ここまで読んで「乗っ取りとか本当にあるの?」と感じられた方も居られるでしょうが、私自身、乗っ取った側にその意識がなく経営権や財産権を奪ってしまったケース、意図的に医師の数人が数ヶ月掛けて病院を乗っ取ったケースなど何例も今まで目にしてきました。医療法人をお考えの方やオーナー一族の方なら自分たちの組織について正確な知識と情報を持っておいて損はないと思います。
〈社団医療法人の最高意思決定機関は「社員総会」〉
そして、医療法人のオーナーたる社員だけで構成するのが次項で説明する「社員総会」です。とりあえず今の所は「医療法人のオーナー会議」と理解しておけば良いでしょう。
社員は3人以上必要、言い換えると社員総会は最低3人で組織されることになります。
営利法人、例えば株式会社などの株主はその所有する株数に比例して発言権を有します。そのため医療法人も同様に、設立時に多くの基金を拠出した社員が圧倒的な発言権を持つ、と勘違いしがちです。
しかし、医療法人の場合は「誰がお金を沢山出したか?」は関係なく、社員総会では全ての社員が一票ずつ投票権を持ち、多数決を原則として重要な物事を決めて行きます。何億円資金拠出した人もゼロ円拠出の人も、医師も医師以外も全て一人一票。株式会社の場合は出資した資金量に応じて発言権も代わってきますが医療法人は違う。この「一人一票」は持分の定めの有無とは関係なく、全ての医療法人に共通。また、社員になるのは自然人(法人ではない、要するに「ナチュラルボーンの人間」)に限られます。何れも非営利性を保つための決めごとですね。
ちなみに、社員には任期がありませんので、悪いことでも行わない限り解任することは出来ず、本人が「辞める」と言わない限り一生辞めて貰うことが出来ません。
なので、設立などの際に「名前だけ貸して貰う」様な社員選びは絶対に避けたいところです。
〈医療法人を経営するのは理事〉
理事は三人以上必要、社員総会で任命されて就任し、医療法人の経営に携わります。理事長は医師または歯科医師が原則で、理事同士の互選で選任されるのですが、多くの小型医療機関は医師が一人なのでたいていの場合理事長選任はスムースに行われます。
また、医療機関1カ所につき管理者(医師または歯科医師が必須)は1名置かなければならず、且つその管理者は理事とするよう定められています(ちなみに分院管理者を社員にする必要は有りません)。この辺りは医療法人経営をスムースに行う上では非常に大事なところですね。
〈「院長」は医療法人が開設した医療機関の管理者〉
「院長」と言うと一般的には一番偉い人のイメージがありますが、医療法人組織の中では決してそうではありません。「院長」は原則として医療機関の管理者であり、管理者は一つの医療機関に一人配属され、その医療機関の現場責任者として働く人を言います。また、管理者は理事になることを定められていますので理事の一人として理事総会の構成員でもある、と言うことになります。
ここで話はややこしくなりますが、「院長」と「管理者」が同じとは限りません。医療機関では時々、様々な「大人の事情」により単に呼称として「院長」を使用することがあり、「院長」が医療機関の管理者ではない場合も有るのです。ちなみに「院長」というのは法律で定められた名称ではないので、管理者と院長が別の人物であることは違法ではありません。何れの場合も「管理者」が医療機関のトップで、理事にも就任することとなります。
まずはここまでのまとめと共に実践的な注意点を書いておきます。
<医療法人の組織>
医療法人の組織は概ね次のようになります。
・社員総会 → 社員(オーナー)によって構成される最高意思決定機関
・理事総会 → 理事(経営者)によって組織される医療法人の経営組織
・医療機関
医療法人が開設、1カ所に一人管理者(理事)が配属される
管理者は一般的に院長と称される
分院が有る場合、分院の管理者も理事となる
※分院を数多く展開すると理事の数も増える事になります。
<医療法人創業者が医療法人を「守る」為に注意すべきこと>
・医療法人の経営権は社員に在り
社員は医療法人のオーナーで、一人一票の投票権を持っています。そのため社員構成には十分注意が必要です。常に「絶対に信用できる人」で社員の過半数を占めておくこと、また何らかの理由で社員が欠員した場合の対策を練っておくことが肝要です。「乗っ取り」は極端な例ですが、法人内の微妙な意見の食い違いが昂じて組織内での仲違いなどが起こることは充分考えられること。そういった場合に、どの社員グループが法人に対してどういった権限をどの程度保持しているかをコントロールし、また知っておくことは大事です。
前にも書いたとおり社員には任期がありませんので選任には充分注意してください。
・理事(経営者)の掌握
多くの医療法人は社員と理事を同じメンバーが務めており、また家族中心に構成されているため社員総会と理事会が争うような場面は滅多にありません。
理事や監事は社員総会において任命するため、オーナー一族で社員を過半数押さえておけば、ある程度のコントロールは可能です。ただし、任期途中で理事を辞めさせることは相応の理由がないと出来ないため、理事会のメンバーが替わったことで運営や経営の方針が変わってしまった場合でも法令に違反していない限り強制的に運営方針変更などをさせることは難しく、気心の知れた方に依頼することが必須でしょう。
社員から見て「当医療法人の理事としてふさわしくない」と判断した場合には、理事の任期(二年)が切れた際に再任しない事で交代や退任させることは可能です。
・監事の選任
監事は医療法人の役員であり、社員総会から委任を受け理事会が適正に医療法人運営を行っているかなどを監査する業務を行います。そのため医療法人傘下の医療機関従事者やその家族、出入りの事業者関係(顧問税理士も此処に含まれます)、理事の親類縁者などは監事不適格とされています。
監査能力のある者として公認会計士、弁護士、税理士などが就任するのが望ましいとされていますが、しっかり仕事をして貰うとすると小型医療法人ではコスト的に厳しいかもしれません。
この監事の選任に悩まれる方が多いのが小型医療法人。院長一家で社員(理事兼任)を固めても、利害関係者では無い第三者で財務諸表などを見せても良いと思える相手を見つけることは難しいと言う方が多いようですね。顧問税理士は自分で作成した財務諸表を自分で監査する事になることもあって不適格とされていますが、昔は九州の一部地域で「財務諸表を読む能力があるから」と言うことで顧問税理士に監事になって貰うことを勧めていたケースもあったようですが、今はちょっと判りません。
監事を理事長等と同じ名字の者にすると行政のチェックが入ることもある、かと言って知人には数字を見せたくない、監査の専門家である公認会計士に仕事として依頼することはコスト面で見合わない。私としては医療法人の理事長同士でお互いの医療法人の監事を委任し合う事をお勧めしますが、この辺りは「誰が良い」とは言えないので難しいですね。
このように、医療法人の組織構成については各医療法人や各家庭の事情なども様々、専門家に相談しながら社員の皆さん達自身が判断するしか有りません。
・経営者周辺には医療法人知識が必須
問題なのが、自分が社員なのか理事なのか院長なのかさえ判っていない医療法人オーナーが世間に多いこと。一人医師医療法人の多くでは院長先生が社員も理事も管理者も兼任しており、自分の一存で何もかも決められる「お山の大将」状況。ここに後継者として数名のお子さん方を社員や理事に入れた後の新たな権利関係が理解出来ず争いになるようなケースもあります。
感情と法律がごっちゃになり違法状態に陥る場合も含め、創業家周辺は特に、予め医療法人関連の知識を得ておくことが必要だと思います。

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